気持ちデータの観察考察

専門はマーケティング分野とかデータ活用。生活者の暮らしはどうデータ化が進み、どう活用され、どう幸せにつながり、それにともない人の気持ちや感情や人生は、どうアップデートされるか。

「スマートスピーカー」のすごいところをまとめ

近年、北米で急速に所有者が増えた「AIエージェントのスマートスピーカー」が、この秋、次々と日本でも販売開始。

「声で操作ができて、おしゃれで便利」というウラで、メーカー同士の熾烈なシェア争いがされてる「背景」がなんなのか、ユーザーというよりはビジネス寄りの視点で、基礎情報をわかりやすく5つの要素でまとめてみた。

①2017年10月が、日本でのAIエージェント合戦のはじまり。

10月上旬、グーグルがグーグルホームの日本発売を開始したのに続き、ついにアマゾンも11月上旬からアマゾンエコーの注文開始を発表。
アメリカではこの2シリーズがシェアの大部分をおさえており、特にアマゾンが約70%と支配的な地位を確立。(グーグルが約20%なので2社でほぼ寡占状態)
日本市場での発売日を、グーグルがアマゾンよりほんのわずかでも先行させたのも、この本国での巻き返し策でもあろう。

日本企業のなかでは、LINEが、独自のAIエージェント「クローバー」を内蔵したスマートスピーカー「ウェイブ」での市場参画を宣言し、こちらも10月に販売開始。
11月にはけっこうTVCMも流しており本気モード。

アップルからも、「ホームポッド」というスマートスピーカーの発売予定の告知まではされたが、北米での発売からして18年以降へと延期され、しばらく日本市場においては、上記の「アマゾン・グーグル・ラインの3社でのシェア争い」が中心になりそうだ。

 

②AI部分とスピーカー部分を、分けて考える

日本ではソニーやオンキヨーもスマートスピーカーの発売を発表したのだが、これらは、内蔵するAIエージェントについては「グーグルアシスタント」の利用を発表している。

 

ここで、整理。
まずこのスマートスピーカー分野の理解において大切なのは、

⑴「AIエージェント」という内側の頭脳機能

と、

⑵それを内部に搭載させた「スマートスピーカー」という外側の機能

の2つを、頭の中で分けて理解したほうがわかりやすいという点だ。

たとえばアマゾンでいうと、
⑴のAIエージェントの部分が「アレクサ」という名前がついたAI機能で、それを搭載したスマートスピーカーのデバイスが⑵の「アマゾンエコー」と呼ばれる商品なのだ。
「アレクサ」が“脳みそ機能”なのだが、そのアレクサを家庭内のリビングでよりよく利用してもらえるように「アマゾンエコー」というスピーカータイプの商品に内蔵させて販売した、というわけだ。
「音楽が聴けるスピーカー」がリビングにあるのはごく自然なことだし、それが「音楽をかける他にも、ついでに他の仕事も頼んだらやってくれるので便利」というコンセプトの商品なのだ。

 

ここで各社の⑴と⑵を整理しておこう。

アマゾン ⑴アレクサ ⑵エコー

グーグル ⑴グーグルアシスタント ⑵グーグルホーム

LINE ⑴クローバー ⑵ウェイブ

Apple ⑴シリ ⑵アップルホームpod

MS ⑴コルタナ ⑵Harman Kardon Invoke


③「音声入力」によってスマホよりもっと手軽に多くの人が操作できる

2017年時点で「AIエージェント」と呼ばれている機能は、あえてざっくり言うと「音声入力機能」のことを指していることが多く、そう考えるのがまずはわかりやすい。(AIの可能性からするとすごく狭義なのだが。)

若年層を中心にスマホの普及率は短期間で相当進んだとはいえ、ここ数年は鈍化。たとえば高齢者層にとってスマホは、自由自在に使いこなすツールまでにはいたっておらず、指先での画面操作には慣れがいるし、高齢の視力だと画面も小さい。

もしも、スマホでやれることがすべて「音声で尋ねるだけ」でやれるようになったらどうだろう。
これまでのスマホだと敬遠してた層も、よりずっと簡単にインターネットでものを調べたり、ネットでの買い物ができたりできるようになるかもしれない。

他にも音声で指示ができるようになれば「手が塞がっている状態」でも用事を依頼できるというメリットも。料理中に濡れた手だと画面を触りにくかったり、掃除洗濯や勉強など別の仕事をしながら、音声でなら操作ができるというのがスマートスピーカーの長所だ。

スピーカーのフリをして、各家庭のリビングの真ん中にはいりこみ、家族に生じるいろんな用事を声で簡単に受け答えするようになるのが、スマートスピーカーの本質である。


④IoTの世界へ。AIスピーカーが、部屋中の機器のコントロールタワーになるビジョン

スマートスピーカーを理解する上でもうひとつ重要なのが、“ホームIoT”という概念だ。

IoTの読み方は、“アイ・オー・ティー”でよくて、その意味は「あらゆる物もそれぞれインターネットでつながるようになる」という概念。

“ホームIoT”というのは、それの住宅バージョンだ。たとえば、これまで「テレビはテレビのリモコン」「エアコンはエアコンのリモコン」だったが、バラバラではなく“全部の操作をひとつのデバイスでやれたら便利だよね”という考え方だ。

じゃあ何をコントロールタワーにするの?というと、「スマートスピーカーの音声指示」にすべての家庭内製品の操作を集約してしまおう、というのが昨今の流れ。それでスマートスピーカーの注目度が高まっている。テレビやエアコンだけでなく、冷蔵庫やロボット掃除機、洗濯機や照明も、すべて音声で集約して操作できるようになる日が近づいているのだ。

たとえばアマゾンは、「エコーと電化製品が連携する機能」を企業側へオープン化しており、各メーカー側がその機能を使ってエコーと家庭内製品をつなぐことができる。これによってたとえば冷蔵庫をエコーで操作できるようになる。

エコーは“いくつもの連携先”のことを「スキル」と呼んでいる。これは、スマホでいうと「アプリ」みたいな関係性だと思えばわかりやすい。手元のiPhoneでいろんなメーカーのアプリを操作できるようなものだ。アマゾンにはすでにこの「スキル」が、北米だとなんと数万件もつながっており、日本版でも開始時から数百件の企業との連携開始が発表されている。

ユーザーからみれば、操作がひとつにまとまっているほうが便利だ。たくさんの企業がアマゾンとの連携を増やせば増やすほど、ユーザーの使い勝手は便利になりユーザーはアマゾンエコーをより家庭で使うようになるため、メーカーはアマゾンエコーと連携をしないわけにはいかなくなってきている。「アマゾンエコーというツールの上にたくさんの企業が乗っかっている状態」。この状態が、典型的なプラットフォームビジネスモデルである。

こうしてアマゾンによる、部屋中の家電製品の“操作の大元締め”のようなポジショニングの確立が進みつつあるのである。


⑤まとめ スマートスピーカーの登場はアマゾンの思惑

いまさらだけど丁寧に「スマートスピーカーの背景」をまとめてみた。スマートスピーカーってなんだろうとぼんやり思ってた人には、「スマートスピーカーが目指す便利さ」が伝わったかと思う。

最後に個人的な感想だか、それでもなお、わたしは「なぜスピーカーにする必要があったのだろう」と思っている。すでに社会に一定浸透しているスマホやタブレットに、その機能を任せてもよかった気もする。
「スピーカー」という、旧時代的なものをわざわざひっぱり戻してきた点では、本当にユーザーがリビングにスピーカーを必要としていたのかと多少ひっかかる。スマホがポケットの中にはいっている限り、スマホが主人の指示の声を聞きとってさえくれれば、2つも3つもコントロールタワーを購入せずに済むはずである。

この「スマートスピーカーの市場」を一番初めにつくったのはアマゾンである。
アマゾンは、スマートフォンやタブレットの市場形成に大きく参画はできなかった。アマゾンがスマホの市場を崩すためには、違うデバイスを持ち込む必要があり、それが「ホームスピーカー」であった。
もしアマゾンがスマホのシェアを大きく持っていたとしたら、わざわざホームスピーカーを投入しただろうか?