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村上春樹「騎士団長殺し」①時間の過ごし方について

騎士団長殺し」は過去の村上春樹作品へのオマージュというか、過去作品内に描かれてきた課題提起の再提起が複数されているように感じられた。

それはまるで自己パロディのような様相を当初感じさせたので、手元のメモには序盤「これは笑うべきなのか?笑」と残してあるほどであったのだが、読み終えてみた事後的感想としては、過去に提起したコンセプト群を「いま眼前にある現代性への課題提起」へときちんと発展的に再提起してみせた作品だったなと好意的に感じている。

さて、今回の作品でも村上春樹は「時間」を最重要視している。自己と向き合う時間をたっぷりとつくり、まわりの流行性に流されずひとつひとつ日々の生活を積み重ねていく清潔な暮らし。これはファッション性の面でも大切な要素ではあるが、本質的には「人間らしく自己を取り戻す」ための必要な儀式なのだろう。引用する。

しかしそれまでに私は時間を必要としている。私は時間を味方につけなくてはならない。12

「あなたはものごとを納得するのに、普通の人より時間がかかるタイプのようです。でも長い目で見れば、たぶん時間はあなたの側についてくれます」ローリング・ストーンズの古い歌のタイトルみたいだ、と私は思った。 60

それから数週間、私はその絵をただ黙って眺めていた。その絵を前にしていると、自分の絵を描こうという気持ちはまったく起きなかった。まともな食事をとる気にもなれなかった。冷蔵庫を開けて目についた野菜にマヨネーズをつけて齧るか、あるいは買い置きの缶詰を開けて鍋で温めるか、せいぜいそんなところだ。103

彼らの音楽は深みのある優れた、美しい音楽だったし、そういう種類の音楽をゆっくり腰を据えて聴く機会を、私はそれまでの人生において持ったことがなかった。日々の仕事に追われていたし、またそれだけの経済的な余裕もなかったからだ。だから私はそういう機会を自分がたまたま手にできているあいだに、ここに揃えられた音楽をできるだけしっかり聴いてしまおうと心に決めていた。204

慌てすぎずに、時間を贅沢に消費すること。せかせか生きずに、自分と向き合うタイミングをつくること。作品に触れるたびに、その時間の使い方の大切さに気づかされるだけでも意義がある。料理をつくり、早寝早起きし、うまく仕事がはかどらないときは手を休めてそのときが訪れるのをじっと待ち、静かな夜に音楽を聴き、お酒をたしなむ。テレビもスマートフォンもない暮らし。小田原の山奥の生活。お金もそんなにたくさんはいらないし、定期的に運動をして、カラダにいい食事をとり、あとは屋根のある家と移動のための車があれば充分。

こういう時間感覚を思い出して体現しないとなと、村上春樹作品に触れるたびに感じいり、刺激を受けるのであった。